天に代わりて不義を討つ

歴史修正主義に反対します。難しいことをやさしく、わかっていると思うことを深く追求して書きます。議論を通じ、対話を通じて真実を求めます。

橋下の慰安婦問題に対する元々の意見はどうなっているか。

  2012年8月24日、「赤旗」記者による橋下市長に対する慰安婦問題のインタビューが、産経・阿比留瑠比記者のブログで読める。
橋下の今回の慰安婦に対する発言はもともと持っていた意見をたまたま口走ったものらしい。反発が噴出したあとはそれに対抗するために付け加わった部分がある。彼の本来の考え方は昨年の8月のインタビューでわかる。当時と今とどこが変わったのか。
 なお、橋下の回答は繰り返しが多いので、主張は損なうことのないように配慮しつつ、適宜カットした。


Q赤旗 慰安婦問題だが、橋下市長は強制の事実は確たる証拠はないといったが、河野談話をみていると強制の事実を認めているが見直すべきか
 
橋 下氏 2007年の閣議決定では、強制連行の事実を直接示す記述は見当たらなかっ たと、そういう閣議決定が安倍内閣のときになされている(※「政府が発見した資料の中に、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たら なかった」)。僕は歴史家ではないから、すべての資料について、古文書等含めて行政文書を含めて全部調べたわけではないので、政治家として93年の河野談 話と、それについての2007年の閣議決定、この2つをもとにして自分の意見を組み立てている。
  
日 本政府が、日本の内閣が、正式に決定したのは安倍内閣のときの2007年の閣議決定であって、そこでは慰安婦の強制連行の事実は直接裏付けられていない と、これは日本政府の決定です。河野談話は閣議決定じゃないですから、官房長官の談話にすぎない。そういう2つの文書が出てきたときに、2つの政府からの 意思表示が出てきたときに、官房長官の談話と政府の、内閣の閣議決定どちらを尊重するのか、法的な位 置づけ、一般論としてどちらが重いのか。

Q 河野官房長官の談話は、政府もいろいろ調査して、いろんな資料にあたって出てきているわけですよね。
 
橋 下氏 閣議決定もそうじゃないですか。どちらの調査に信をおかなきゃいけないんですか。

むろん、内閣の閣議決定は官房長官談話より重要である。本来は河野談話にある内容は閣議決定すべきであったが、自民党内の抵抗があったためそうなっていないのである。

閣議決定は「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」にとどまっている。河野談話の内容は「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められ」、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」ことを認定しており、閣議決定ではこれらの認識を覆すことはしていない。

また、歴代の内閣は河野談話を継承するとしてきた。安倍内閣は見直しに言及したが、現在は継承はしているという考えらしい。
軍や官憲によるいわゆる強制連行なるものの記述を政府や軍が記録したり、保存することは考えにくく、そのようなものがある可能性の方が低い。さらに内閣の調査において は探す範囲を限定して、本気で探さなかった、あるいは探すことすらしなかった疑いさえある(法務省関係、警察関係の文書が出てきていない)。

野党議員たちはすでに、裁判記録として残されているものがある ことを野党議員が指摘しており、現安倍内閣は強制連行資料が存在することを否定できなかった。
紙智子議員の質問に対する回答赤嶺議員に対する政府の回答


吉見(義明)さんという方ですが、あの方が強制連行の事実までは認められないとか、そ ういう発言があったりとか。まぁ、強制連行の事実については、いろんな意見ある中で、それでも日本政府は国家としての意思表示として2007年に強制連行 の事実を裏付ける証拠はなかったということを閣議決定している。だから、僕は韓国側の方に事実の有無を問題視しているわけではないですよと、証拠の有無な んですと、日本政府が調べた限りでは証拠はなかったと。
それから、済州島の方の吉田清治さんの主張について、新聞社か何かが済州島で確認したら、 そういう事実はないという報道が済州島の新聞社がしたとか、いろんな情報が調べれば出てくる。いろんな情報がある中で、強制連行の事実を裏付ける証拠が あったかなかったかといえば、それは日本政府としてはそういう証拠はなかったといっているわけです。

吉見義明氏が強制連行を否定した事実は存在しない。


それで今回、僕がこういう発言をしたら、韓国メディアは、証拠は河野談話といってきた。これは大変な、日本政府の大失態ですよ。河野談話は証拠ではないんですから。

韓国メディアが「証拠は河野談話」などと言った事実はない。実際はこういう報道だった。
>橋下大阪市長が妄言 中央日報 2012年08月22日08時25分  
>だが、こうした発言は慰安婦連行の強制性を認めた「河野談話」を正面から否定する日本右翼の主張を繰り返したものだ。



    韓国政府の言う強制連行とは、当時において日本政府が加盟していた婦女売買に関する国際条約に違反する行為である。つまり、「詐欺または、暴行、脅迫、権力 乱用、その他一切の強制手段」による動員を強制連行としている。最初は甘言による詐欺で慰安所に連れて行ったとしもそれは強制連行である。


僕ら裁判やるときに、事実の主張と証拠は別のもの。次元の違うものです。事実の主張というのは、証拠のあるなしに関わらず、事実として認識を表明すること。その認識を表明したことにかんして証拠があるかどうかというのは、証拠の問題なんでね。だ から河野談話というのは、事実主張の段階なんです。まだね。だって河野談話というのは、ああいうふうに認識を表明しただけ。証拠があるわけではないわけで す。

河野談話というのは政府による調査結果を基にした事実の認識である。談話作成のために宮沢内閣が収集した、政府・軍の文書と元慰安婦などの聴き取りなどの資料は保存されており、これが「証拠」にあたる。

この段落は典型的詭弁である。橋下は下線部分で事実の主張は証拠のあるなしに関らない、といいながら太字部分で河野談話は事実主張の段階であり、証拠があるわけではないとすり替えていることに注意。


河野談話で重要なことは、軍の関与、だから僕は軍の関与までは否定していません。そりゃ、慰安所という施設の性質からすれば、公的な管理は必要、衛生上、そして秩序上、それから戦時下という状況上、公的な管理は必要ですよ。今だって風俗営業は公安委員会の管理下にある、ある意味、慰安所という施設の性質からすれば公的な管理は必要。

軍の関与は衛生上のものだったり、秩序管理のみではない。軍は慰安所の設置、管理、運営。慰安婦の募集、業者の選定、慰安婦の移送など慰安所政策全般に関るものである。橋下はこれらの項目に対して故意に無視を決め込んでいる。


あと本人の意思に反してという言葉が河野談話のなかにあり、しかし本人の意思に反してというのは法律用語でも二つの意味があって、本人が不本意に感じているという意味と、第三者から強制的にやらされたということの意味が2つある。裁判なら、どっちかを確定するわけです。河野談話をつ くった作文者が誰か知らないけど、不本意という意味か、強制の意味なのかはっきりさせずに入れちゃったから、これ は大変な問題になった。

慰安所に送られてから、意に反して兵士の性の相手をさせられたという証言はある(慰安婦の主観)。
また、慰安所に拘束されているのであるから、客観的にも強制である(客観的事実)。
騙 されて連れて行かれている間は、本人の本当の意思を確認はできない。慰安所に連れて行かれてはじめて、騙されたということがわかる。そこで女性は不本意で あると感じる。慰安所では性労働を拒否できないし、居住の自由もないし、廃業の自由もなかった、ということは強制で間違いない。


あ とは慰安婦とか、慰安所というのが倫理的にどうなのかという問題で、強制的に連れてこられたのでなければ、倫理的な問題で、倫理的にみればね、かわいそう だ、とか、不本意にそういう仕事に就いて心身共に苦痛をこうむったというのはかわいそうだという問題はね、人間としてそういう感情が起こるのは当然だと思 いますけれども、強制的に連れて来たのでないという前提で、そういうしんどい仕事について大変でしたね、という気持ちを表すのは僕は否定しないけど、しか し強制的に連れてきたのではないということをはっきりさせた上で、そういう気持ちを表さないと、かわいそうですねという同情と、謝罪は別です。

この段落は曖昧な言い方で論点が明解でない。
慰安婦制度が倫理的にどうか。強制連行についてはもしそれがあれば悪いことを橋下も認めている。好きでもない複数の異性と性交をするのは倫理的にどうかという問題を除けば、女性の側で自発的なものか、強制されたものかだけが問題だ。

証言を読むと慰安所に騙されて慰安所に連れて来られて、ついたのが慰安所だと気がついた時点で返して下さいと訴えている。もちろん返してもらったひとはいないのでその後の兵士に対する性労働はすべて強制であった。


Q赤旗 証拠がないという政府の話は、公文書のことだろうと思うが
 
橋下氏 そうですね。
 
Q そうすると、ずれのない証言あると韓国サイドはいう
 
橋 下氏 それを戦わしたらいい、金(学順?)さんという方ですかね、最初いろんな問題出された方は裁判まで起こしたけれども、実は自分は身売りされたんだ と、日本の官憲に強制的に連れて行かれたのではなくて、いわゆる公娼制度とか、慰安所に身売りされたんだという事実も訴状に入っていたことあるし、いろん な証言あったり、いろんなものあると思うので、それを整理したらいい。

金 学順さんは妓生券番で芸事を習ったあと、養父に中国に連れていかれ、その後日本軍慰安婦にされた。慰安婦にされた経過については本人もよくわからないよう だ。そもそも、騙されて連れて行かれる本人が周囲の誰がどういう役割を演じていたか、知るよしもない。慰安所で働くつもりがなかったことはたびたび行なっ た証言でも一貫している。金さんの場合も強制連行と慰安所での性労働強制は明らかである。


日本政府は公文書だけではないですよ、河野談話やる前の証言者にも聞き取りをやったわけで、その揺れというのは客観的な証拠になりえなかったという判断の下に2007年の閣議決定やったわけですから。

河 野談話は証言の聞き取り調査も総合して判断したことを明言している。しかし、「証言の揺れのめ客観的な証拠になりえなかった」という判断を下したとは 2007年の閣議決定には一言も書いていない。閣議決定でも河野談話は引きついでいる以上、証言を証拠としないとは言っていないのが事実である。(2007年の「閣議決定」(質問主意書に対する回答)は末尾に提示)


慰安婦の問題は、2つの問題を間違っちゃいけない。強制的に連れてきた、これはね、あってはならない。もしそれがあるなら、謝らなきゃいけない。もし慰安婦とか慰安所を問題視しているのであれば、それは日本だけじゃないですよ、もっといえば、現代社会にあっても同じような状態、各国に よって制度は違うけれども、いわゆる性を商売にすることは世界各国でもあるわけです。こういう問題について、それは倫理的によくないとか、いろんな経緯が あってそうなったことはかわいそうですね、違う職業に就くならサポートしますよという話と、強制的につれて来たからごめんなさい、という話は別問題です よ。

強制連行はあった。慰安婦制度の問題とは強制連行と性労働の強制である。韓国の主張もそうである。単なる売春宿を軍隊が使用しても慰安所とは言わない。強制性労働を軍がさせるのが軍慰安所であり、当時作った国はドイツと日本だけである。


Q 慰安婦の証言は証拠にはならないのか
 
橋下氏 閣議決定ではなっていない。
 

閣 議決定で証言を証拠としないということは述べていない。公文書が発見されないと言っただけである。もちろん、証言だけで決めていいのかという声があるから 閣議決定をしたのであろうが、一方で河野談話を引き継ぐと安倍首相も明言しているので、証言が証拠にならない、と言っているわけでもない。


Q 橋下さんは証拠にならないという認識か
 
橋下氏 証言の信用性があるかどうかですね。言ったから証拠とはならない。裁判でもそうです。証人が何十人、何百人出てきても、そこが信用性に足りるかどうかというところが問題。いろいろ慰安婦が証言者として出てきたが、しかし、それが40何人の証言者のうち半数近くが身売りだったとかいう話だったから、強制の話ではないという整理されたこともある。身売りの話と、家と業者の間での身売りの話と、政府が国が強制的に拉致、暴行、脅迫をもって連行したというのは別の話です。
 

よ く、証言の信憑性なるものを否定する議論があるが、証言の中核は騙して連れてこられ、性労働を拒否すると暴行された、脅されたというものばかりである。ま た、証言はひとつや二つではなく、多数の証言が存在し、少しずつ違った状況が述べられており、安易に否定することができない。司法の場でも事実認定がされ ている。

Q 暴行、脅迫じゃなくて、だまして連れてきて…
 
橋下氏 それは誰がだましたんですか
 
Q 業者とか含めて…
 
橋下氏 業者は国じゃないですよ
 
Q 軍の関与で業者がつれてきているという事実があります
 
橋下氏 その証拠はないです。出ているものはないです。

これは橋下の認識不足で慰安婦集めの業者は軍が統制すると明確に述べている。それが、慰安婦に対する軍の関与が証明されたはじめての資料である陸支密第745号である。(この解説は)

 

Q だまされて連れてこられた場所が慰安所だった場合も強制にはあたらないという考えか
 
橋下氏 それは日本政府の話じゃないですね。民間業者と慰安婦の話ですね。
 
Q 軍の関与で
 
橋下氏 軍が関与していたのは施設を秩序と衛生管理上の問題から、管理していたのであって、慰安婦をだまして軍が連れてきたという証拠はない。
 
Q もし、それが証言としてあったとしても、証拠とはならないのか
 
橋 下氏 だから、先ほどから繰り返して言うが、証言が採用されるかどうかは信用性の問題ですから。聞き取り調査をして、本当にそれが信用性あるのかどうなの か、事実と照らしてね、証言はしゃべったからすぐ証拠ではなくて、事実と照らし合わせて信用性がどうなのかという信用性をチェックしなきゃいけない。いま慰安婦問題で、強制連行があった、あったと言っている人たちは、客観的な証拠はない中で、本人たちの証言で強制連行があったといっているが、その証言内容をしっかり精査する作業を韓国政府の方も日本政府もしっかりやらないといけないと思います。

証言も元にして作成された河野談話は安倍内閣も継承するという立場である。とすればそもそも証言内容に具体的にどういう疑問があるのか、ということを橋下自身が明確に示すべきだろう。 

 

Q 日ごろ外交問題は慎重に発言するが、この問題は、どうしてここまで突っ込んで発言するのか
 
本来は大阪市長の立場で言うべきではな いけど、現状維持を韓国サイドの方が崩してきた。大統領が竹島に、これは不法上陸ですよ、わが日本国の立場からすれば、何で訪問なんて言葉を使うのかわか りませんけれども、わが日本国の立場からすれば不法上陸、そうなれば根っ子の部分については一政治家としてしっかり発言しないといけないと思っている。
し かし、隣国同士なので、早く事態の収束を図って、それから一番の根っ子の部分、慰安婦の問題が、両国の国民の心の中にくすぶっていることは間違いないか ら、この部分についてね、どうくすぶりを治めていくかといえば、やっぱり腹に入っているモノを表に出して、何が問題で、この問題についてはどうなんだとい うところをはっきりと明らかに、あいまいにせずに決着すべきだと思う。それが日韓関係をレベルの高いものにすると確信している。

河野談話さえ、「あいまいな決着を図ってきた」部分は存在する。それを日本に責任なしに戻そうとするのが、橋下である。これは日韓関係を修復できないものにする。

(了)


 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書辻元清美議員)(当ブログへの該当部分のみ)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a166110.htm

 

 1 「定義が変わったことを前提に」と安倍首相は発言しているが、何の定義が、いつ、どこで、どのように変わった事実があるのか。変わった理由は何か。具体的に明らかにされたい。

 2 「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」と安倍首相は発言しているが、政府は首相が「なかったのは事実」と断定するに足る「証拠」の所在調査をいつ、どのような方法で行ったのか。予算を含めた調査結果の詳細を明らかにされたい。

 3 安倍首相は、どのような資料があれば、「当初、定義されていた強制性を裏付ける証拠」になるという認識か。

 


衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書(該当部分のみ表示)

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b166110.htm

一の1から3までについて

 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。

 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。