天に代わりて不義を討つ

歴史修正主義に反対します。難しいことをやさしく、わかっていると思うことを深く追求して書きます。議論を通じ、対話を通じて真実を求めます。

小林よしのり、極悪の反人権漫画家の慰安婦論を討つ(1) 

 小林よしのり氏「あえて問う、従軍慰安婦は必要だった」週刊ポスト2013/05/31号というのがありまして、これはネタになると発売当日早速購入しました。しかし、とんでもない暴論、歴史に対する無知の連発で、反論を書くのに時間がかかる。とりあえず、数回にわけてupします。

小林よしのり週刊ポストに書いた、慰安婦必要論(青字部分)である。

 


 「戦時中に慰安所は必要だった」とする橋下発言は、何ら間違っていない。

 

  現代の人権至上主義の価値観を過去の歴史に押し付けることは、歴史の実相を見えなくするだけだ。戦時中の日本には公娼制度があり、国内において売春は違法 でもなんでもなかった。国内はOKで戦地はダメというのは理屈が通らない。繰り返すが、あくまで当時の価値観や法においては認められていたということだ。
 


 

(1)現代を「人権至上主義」と見る小林の価値観とはなんだろう。人権とはhuman rightsの訳語である。人としての正しい姿、もって生まれたはずのあるべき姿のことなのだが、小林は人権が最も尊ばれるべきとは考えない。人権の一部は放棄して国家に捧げようというのが小林の人権観、国家観なのである。

 

(2)慰安婦問題を語るとき現代の価値観で過去を断罪するな、というような言葉がよく語られる。否定派だけでなく、自分を「中間派」と思っている方の口からもよく聞く。

 しかし、現代に生きる個人が語るときはたとうそれが過去の事象であれ、いま現在、自分が持っている価値観からしか語れない。ひとりの人間である以上、過去を語るときと現在を語るときで価値判断の基準を変えることはありえない。
  例えば黒人を売り買いしたり、奴隷労働させていたのはいいことなのか、悪いことなのか。誰でも悪い、悪かったと答えられるだろう。数年前のことだが、アメ リカ政府は奴隷制についてアフリカのひとたちとアフリカ系アメリカ人に対して謝罪した。アメリカで日系人を戦中に収容所に閉じ込めたのはいいことだったの か、悪いことだったのか。アメリカ人はそれはその時代にあった価値観、あるべきたった価値観に照らして悪いことだった、とはっきり言って当時の被害者であ る日系人に謝罪したのである。

  ところが日本人の間では慰安婦に対しては当時は慰安婦は認められていたのだから、仕方がない、謝罪の必要はないと言って憚らないひとたちがすごく多いので ある。これに対して海外からの批判は厳しくなる一方である。慰安婦問題ひとつとっても日本は人権意識が遅れたどうしようもない国だと思われはじめている。 これは国家の名誉を大きく損ねている。

 

(3)日本では売春が合法だったから問題はなかった、という意見もよく聞く。しかし、その当時の実情は売春が合法であったと単純に割り切れるようなものではなかった。

 まず、法制から見てみると、私娼は取り締まりの対象となった(つまり売春非合法)。 その上で強制売春の場である貸し座敷に隷属した娼妓に対して解放を指示した。けっして売春を合法化しようとしたのではなく、今いる売春婦(娼妓、酌婦)に 対して貸し座敷主からの解放を目指したのが娼妓解放令である。売春は倫理上好ましくないことであり、国家としてはできればなくしたい、しかし、今いる貸し 座敷主の立場にも配慮した(強制売春の継続を事実上認める立場)。新たに売春婦になる場合においては自由意志で職業を選択したことを女性みずからが意思表示することを求めた(新規の強制売春の禁止)。これは国際的な体裁を整える、人権活動家などの批判に答えるという立場と従来の実質的な性奴隷制度を守る立場との折衷であった。

 公娼制度は人身売買と一体化していた。女性が事実上の奴隷制度である公娼にすすんでなるということはありえず、常に人身売買が絡んでいた。人身売買の規制はさすがに公娼のお目こぼしとは違い、かなり厳格に実行された(強制売春の前提を禁止)。当時でも公娼に反対する運動は激しいものがあった。府県単位では14県が廃止を決定した(地方によっては公娼は完全禁止)。

 当時の価値観はけっして公娼を認め売春を合法としていたとは言えない。売春にかかわる女性の人権を守ろうとする側とこれを蹂躙して利益を出そうとする側の戦いがあったのである。そして、売 春・強制売春に対する価値観は当時もいまもけっして一様ではない。私たちが当時の公娼制度をどう評価するか、それは直接に現在の売春、特に事実上の強制売 春をどう見るのかという価値観と直接に結びついている。当時、公娼制度を維持しようとする側に身を置いてものを言うのか、公娼制度を完全撤廃する立場でも のを言うのか、それが問われているのだ。